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『ミッフィーからの贈り物』はクリエイターの心に響く一冊

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ミッフィーの作者・ディック・ブルーナさんは、絵本作家でもあり、デザイナーでもありました。

オランダ・ユトレヒトで生まれ育ち、2017年2月に永眠されました。

世界中から愛されるミッフィーは、どうやって誕生したのか。ブルーナさんはどうやって絵本作家になったのか。

ぜひ『ミッフィーからの贈り物 ブルーナさんがはじめて語る人生と作品のひみつ』を読んでみてほしいのです。

この本は、ブルーナさんへの77個の質問をまとめたインタビュー集なんです。

どのように育ち、どんなことを考え、どうやって絵本作家になったのか。ブルーナさんが一つ一つ丁寧にこたえてくれています。

ブルーナさんの言葉は、曲がりなりにも絵本サイトを運営している私の心に、深く刺さりました。

引用も入れながら思ったことを書いています。どうぞご覧ください^^

ディック・ブルーナさんが大事にしていたこと

この本、とても読みやすいのです。77個の質問がありますが、一つの質問に対してブルーナさんの言葉は、どれも見開き1ページくらいです。

インタビューなので、ブログを読むような気軽な感じで読み進められます^^

自己紹介から始まり、仕事場のスタジオや周辺の町の雰囲気、一日の過ごし方、家族のことなど。

好きなものにかこまれたおちつける空間、そして窓から入ってくるユトレヒトの空気。これらが心をいつもおだやかにしてくれるから、安心して創作活動ができているのだと感じています。

第1章 p.15

本を読み進めると、ブルーナさんの人柄がよく伝わってきます。そして、心がおだやかでいられる空間、環境を大切にしていることがよく分かります。

また、時間の流れもとても大切にしています。ブルーナさんの一日は、比較的朝が早くて、いつも決まった流れで過ごしている。

もう何十年も曜日に関係なく、この規則正しい生活をつづけています。というのも、ぼくにとって描くことは仕事というより、楽しくて仕方がない趣味のようなもの。心から好きなこと、本当にやりたいことができる時間なのです。
これからも、かわらずにこのリズムでやっていくことになると思います。

第1章 p.19

ブルーナさんは、作品ができあがると、真っ先に奥様に見せていたそう。

「作品がひとりよがりなものになっていないだろうか?」
という不安はいつもあります。夢中になって打ち込んだものには、その危険性がついてまわるからです。

第1章 p.21

どれだけ描いても、慣れた仕事であっても、その出来ばえに謙虚になることは、創作活動に必要です。

第1章 p.22

客観的に見てもらうこと。謙虚になること。妥協しないこと。ブルーナさんが大切にしていた、「仕事への姿勢」が伝わってきます。

私はつい逃げてしまう。「仕事じゃないから」「ただの趣味だから」と言い訳して。

だけど、例えアマチュアだろうが、今の時代、個人の発信も世界中に届くもの。言い訳なんてしてる場合じゃないんだよね。

積極的に意見を貰い、妥協せず。勉強して、責任を持ってよりよいものを作って発信する。

それが、これからの自分に必要なことなんじゃないかな、と思います。

絵本作家として成功した背景にあった環境と努力

第2・3章では、ブルーナさんの生い立ちや、絵本作家になるまでの苦労や努力が語られています。

出版社経営の家庭に生まれ、デザイナーとして仕事をしていた

ブルーナさんのお父さんは、出版社(A・W・ブルーナ社)の三代目経営者だったそう。

曽祖父が創業し、祖父の代までは神学書が専門の小さな出版社でしたが、新しいアイディアで会社を大きくしたのが父でした。当時は急速に鉄道網が発展して電車が普及した時代。父は、車内で気軽に読めるペーパーバックの推理小説をオランダではじめて手がけて成功したのです。

第2章 pp.24-25

出版社経営の家庭に生まれたブルーナさんの環境。

時代の流れを読んで新たな試みで成功したお父さん。

ブルーナさんは、お父さんの意見に反発することもあったけれど、紆余曲折を経てお父さんの元でデザイナーとして働くことになります。

そこで修行を重ね、出版物の表紙をデザインするチャンスも与えられた。

この記事ではご紹介しきれませんが、出版社での修行を通してブルーナさんが様々な刺激を受け、成長していったことが分かるエピソードが満載なんです。

美術の学校に少しだけ通っていたというブルーナさん。目指す方向が違うと感じてすぐに退学してしまったそうだけど、そこでの出会いも良い刺激となった。

戦後、オランダでは急速に国の再建が進んでいました。商業や産業だけでなく、音楽、美術、演劇、建築などアートの世界でも、すべての関心が新しく斬新なものに向いていたのです。

第3章 pp.57-58

とくにデザインのジャンルでは、都市、建築、家具、グラフィックスなどのすべてに、今までとはまったく異なる、新しい時代を象徴するスタイルを追求する動きが高まっていました。ぼくは、そういう時代のまっただなかで、多くの若きデザイナーたちと交流するチャンスにめぐまれたのです。

第3章 p.58

なるほど、ダッチデザインのあの奇抜さ・・・斬新さは、こういった背景があったのか。

交流することの大切さは最近なんとなく分かります。私もイラストを描く方々と実際にお会いするようになって、そこで受ける刺激は画面越しのそれとはレベルが違うと感じるんですよね。

子供の頃から絵を描き続け、出版社でもデザインの修行を重ねた

ブルーナさんは、絵を描くことを本当に愛していて、大変な努力家でもありました。

ただ好きだからという理由だけではなく、ぼくは、もっと小さなころから「なんでもいいから、毎日一つ絵を描こう」と心に決めて実行していました。それが積み重ねになるという気持ちがあったからです。

第2章 p.41

私はどんなに好きなことでも、毎日継続して積み重ねていくということはできないかな。

ブルーナさんは第1章でも言っていたように、「曜日に関係なく、規則正しく」生活している。

毎日、規則正しく、物事を継続して積み重ねる

(おそらく出版社に勤めていた頃には、さすがに毎日同じようにとは行かなかったんじゃないかとも思うんですが)

積み重ねが実を結ぶんですよね。言うのは簡単だけど、実行するのは容易なことじゃない。せめてタスクを小さく設定して「小さな積み重ね」をしていけたら、とは思う。

ブルーナさんが語るデザインの話は大変参考になりました。

最小限の線で明快に描くことが大切でした。必要がないものをギリギリまで削り、いかにも簡単に見える線だけで、その対象がもつ本質をきっちりと書きだそうとしたのです。

第3章 p.72

この原則があればデザインに迷いはおきません。あとは、それぞれの本やポスターにふさわしいものになるよう、いかに表現していくかということだけなのです。

第3章 p.72

不要なものを削り、簡単に見える線で、本質をきっちりと表現する

ブルーナさんが生み出すシンプルデザインのエッセンスを垣間見ることができました。

ブルーナさんが手掛けた作品は、『シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン』という本でたくさん見ることができますよ。

2017年4月から全国巡回していた「シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン」展の公式図録です。 お高いけど。。

ブルーナさんが60年に渡り手がけた絵本やブックデザイン約200点を厳選している、とのこと。

それまでミッフィーの世界観しか知らなかった私にとって同書は衝撃的でした。

シンプルで、シュールで。ちょっとドキッとするようなものもあるんです。

デザイナーとして働きながら、絵本作家としての道を歩み始める

ブルーナさんが絵本を出版できたのは、身内が経営する出版社に勤めていた環境も大きかったかもしれません

ブルーナさんがはじめて手掛けた絵本

でも、ブルーナさんの絵本への思い、絵のタッチへの拘りが、子供たちの心を捉えたからこそ絵本作家として成功したのだということがよく分かります。

「一枚一枚、どれをとっても壁にかけておきたくなる、シンプルな線と色で描いた絵で、物語をつくれたらすてきだろうな」

第3章 p.74

「どれをとっても壁にかけておきたくなる」・・・ああ、この感覚、すごく分かるな。(畏れ多いけど)

私は今、そこまでイラストに力を入れられていないけど、いつかウェブ上でそんな空間を作りたいなと思う。

デザインをつらぬくスタイルの方向は、すでにこのときから決まっていました。使う色はすべて赤、青、黄、緑色。それに黒。基本はこの色です。茶色とグレーは、あとになって必要に迫られてくわえた色です。

第3章 pp.75-76

「ブルーナカラー」って言葉、聞いたことがある方も多いかもしれません。

ブルーナさんは、使う色を絞って絵本作りをしていました。

ここでは説明を省略しますが、ちゃんとそれぞれの色に込められた意味もあるんですよ。(本の中に書いてあります)

ブルーナさんは、絵本にもシンプルさを追求していた。

形はあくまでもシンプルであること。そして、余白を生かしたデザインであること。絵につける文は、詩のように短く、言葉の響きがよいものであることが大切でした。

第3章 p.76

これは心に留めておきたい言葉。

私はデザインのことも、絵本のことも、専門的な場所で学んでいません。今後もどこかで学ぶような機会は持てないと思います。

だからこそ、ブルーナさんが残した言葉/デザイン/挿絵をヒントに、シンプルだけど心に響くような絵本を作っていきたい、とか思うんですよね。

ブルーナさんの絵本は、最初はあまり売れなかったそうです。だけど、子供たちの反応は良かったと。のちに、徐々に大人たちの評価も得ることができたそうです。

ミッフィーとブラック・ベアの誕生秘話や、デザインに込められた意味、作画の手法の話

第4章以降は、具体的な話が満載です。

ミッフィーとブラック・ベアはどうやって生まれたのか

ミッフィーは、実はブルーナさんが息子さんに語ったお話をもとに作られたのだそう。

くまのプーさんなんかもそうですよね。あのシリーズも作者が息子さんのために作った物語が出版する運びとなったもの。

親が自分の子供のために作る絵本にはパワーがあると思う。

ブラック・ベアは、ブルーナ社のペーパーバック「ブラック・ベア」シリーズの宣伝用ポスターのために描かれた作品。

ブルーナさんはたくさんブラック・ベアの絵を描きました。

オランダでディック・ブルーナと言えば、ミッフィーよりむしろ「ブラック・ベア」の方が認知度が高いみたいですね。

デザインに込めた意味やこだわり

なぜミッフィーは、いつも正面を向いているのか。なぜ口が✖なのか。

絵本の形はなぜ正方形なのか。

ブラック・べアの目はなぜ赤いのか。

絵本作りに選んだ色の意味、シンプルさにこだわる理由・・・

その答えが、本の中にあります。

ブルーナさんはデザイナー出身の絵本作家。形や絵に、「なぜそうなったのか」の意味がちゃんとある。

自分が絵本を作るとき、「なんとなく」ではいけないな、とハッとさせられました。

道具や作画の話

ここでは書きませんが、どんな画材を使い、色をつけているのか。

作画の手法を具体的に教えてくれています。

文章だけの説明ですが、丁寧な説明のおかげで、キャラクターたちを描いているブルーナさんの姿が思い浮かびますよ。

ブルーナさんの言葉はあたたかい。ものづくりをする人にぜひ読んで欲しい一冊

デザイナーとしても絵本作家としても大成功をおさめたブルーナさんの考え方や制作秘話、具体的な作画の流れを知ることができる貴重な一冊です。

でも、それだけじゃなくて、ブルーナさんの言葉は一つ一つがとにかくあたたかい。

心が洗われるような気がするんですよね。

ところどころで、不意打ちで涙が出そうになることをおっしゃる。

子どもの涙を見るのはつらいことです。想像しただけで胸がしめつけられます。だから、ぼくが描く絵本はどんなときでもハッピーエンドです。
「子どもたちに笑顔を!」そして、いつも、すべての子どもたちに「平等に幸福が訪れますように」と願いながら描いています。

第5章 p.112

ブルーナさんは、48歳のときに独立して自身の会社を立ち上げます。

独立後の活動について、次のようなことも語っています。

仕事の依頼は企業からもありましたが、できるかぎり病気や貧困に苦しむ子どもたちや障害をもった人たちに役立つ仕事を選びました。自分ができるジャンルで、世の中の困っている人たちの力になるのは、人として当たり前のこと。オランダ人ならだれもがもっている気持ちです。絵やデザインで貢献できるのなら、できるかぎりの力をつくしたいと考えます。

第5章 p.111

人の役に立つことを。絵やデザインで貢献する。

規模は小さくても、私もそんなふうになりたいと素直に思う。

最後にブルーナさんはこんな風に語っています。

ぼくのライフワークとなった、デザインスタイルの追求。どこが終点なのか、どこまでいけば、もっといいものを描くことができるのか、答えは見えません。だから毎日描きます。
 今日よりももっといいものを。もっともっとシンプルに。
 これからも、ずっと力がつづくかぎり。

第8章 p.186

日本語をつけた人がまた上手いんだと思うんですけどね、すごく・・・心に響きました。

最初から最後までブルーナさんの人柄に癒され、いい物を作りたい!という気持ちにさせてくれる一冊でした。

ぜひ読んでみてください^^

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